目まぐるしく変わるレース展開、新星ランナーの出現、実力者のブレーキ…。大会そのものがドラマ性を帯びているためか、正月の風物詩「箱根駅伝」を題材にした小説は多い。週刊文春では池井戸潤さんの「俺たちの箱根駅伝」がことし6月まで連載された

▼三浦しをんさんには「風が強く吹いている」という作品がある。同じ寮に住む10人が一念発起し、わずか1年の練習で予選会を突破する。設定はかなり現実離れしているが、過去の競技生活で心に傷を負った主人公ら個性的な登場人物が絆を深めていく姿には引き込まれた

▼臨場感にあふれるのは箱根駅伝に2度出場したことがある黒木亮さんの「冬の喝采」だ。度重なるけがに耐え、レギュラーの座をつかみ取るまでの自伝的長編である

▼黒木さんは金融機関や商社での勤務経験を生かした経済小説で知られるが、大学時代は競走部に属していた。チームメートには、当時から国内トップランナーだった瀬古利彦さんがいた

▼1979年の大会では、瀬古さんからトップでたすきを受けた。「あと数分で瀬古が到着する(中略)緊張のせいか、シューズの紐を縛り直す自分の手が、強張(こわば)っているような感触があった」といった描写は経験者ならではだろう

▼年明けの1月2、3日には選手たちが小説以上の熱い闘いを展開するはずだ。前回大会では十日町、燕、五泉、糸魚川市出身者らも箱根路を駆けた。県勢の活躍にも目を凝らしたい。大会は、今回で第100回の節目を迎える。

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