2023年が暮れようとしている。新型コロナウイルス感染症が落ち着きを見せ、国内では5月に感染症法上の位置付けが5類に引き下げられた。
街に活気が戻り、観光地はにぎわい、競技場に歓声が響くようになった。かつてのような日常が徐々に戻ってきた。
しかし、依然として景気に明るさは感じられない。ロシアのウクライナ侵攻を受けたエネルギー資源価格の高騰や円安などの影響で、消費者物価指数は41年ぶりの上げ幅を記録した。
賃上げの動きは見られるようになったとはいえ、物価上昇に追いつかない。疲弊している人は多いだろう。
◆政治の劣化が進んだ
今月で没後30年となった田中角栄元首相は「政治とは生活だ」との言葉を残している。だが今の政治家は国民の生活と向き合ってきたと言えるだろうか。
国民感覚と離れた巨額の裏金をつくり、目先の支持率ばかりを意識した政権運営を押し進めるようでは、政治の劣化が進んだと言わざるを得ない。
自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金問題は岸田政権の中枢を直撃した。最大派閥の安倍派(清和政策研究会)を閣僚から一掃する事態となった。
年末には東京都の江東区長選を巡る公選法違反事件で前法務副大臣が逮捕された。
共同通信社の今月の世論調査で、岸田内閣の支持率は過去最低の22・3%だった。自民の政党支持率は12年に政権復帰して以降、初の20%台となった。
支持率が下落すると急に聞こえのいい施策を掲げる。岸田文雄首相の政治姿勢には、ビジョンを感じられない。
岸田政権は防衛費を5年間で総額43兆円に増額する方針で増税で賄うとしているが、年末に増税時期の決定を先送りした。
国民受けを狙った所得税などの定額減税も支持率に結びつかなかった。人気取りの狙いを国民に見透かされたのだろう。
「異次元」と銘打った少子化対策は財源確保策が不透明のまま積み残る。
安全保障に関わる大きな政策転換が、なし崩しで決められたことも見過ごせない。
岸田政権は、防衛装備品の輸出ルールを定めた防衛装備移転三原則と運用指針を改定した。
柱は、外国企業が開発し日本企業が製造するライセンス生産品の輸出解禁だ。殺傷能力のある武器の輸出が可能となる。国際紛争を助長する懸念がある。
世界に目を向ければ、出口の見えぬ二つの大きな戦争が続いている。罪のない多くの人々が亡くなっており、胸が痛む。
◆環境への危機感強く
地球環境の変化は深刻だ。23年は一年を通じ、過去12万~13万年間で最も暑い年だったとされるデータも発表された。山火事など気象災害が多発した。
日本は記録的な猛暑となった。県産米に高温障害が多く発生しコシヒカリの1等米比率は過去最低の水準になる。
国連のグテレス事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代になった」と訴えている。気候変動への危機感を世界で共有したい。
気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は「化石燃料からの脱却」などを進めるとした成果文書を採択した。
各国は25年早期に温室効果ガス排出削減目標を提出する。目標を示すだけではなく、どう実現するかが問われよう。
日本は、温暖化対策の一環として、原発の60年超運転を可能にするGX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法を成立させた。
既存原発を可能な限り活用して脱炭素を進める狙いがある。しかし、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の問題が進まなくてはバランスを欠く。
最終処分場の立地も見通せていない現実を直視すべきだ。
暗い世相の中にも光明があった。若い才能の活躍だ。
将棋の藤井聡太八冠は全タイトルを独占した。野球の大谷翔平選手は日本人初の米大リーグ本塁打王に輝いた。
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での日本代表の世界一達成に、全国民が励まされたのではないだろうか。
スターが並ぶ米国戦前に大谷選手が語った「憧れるのをやめましょう」の言葉には、胸が熱くなった。
前を向くことの大切さを示してくれた。困難があっても、諦めずに進みたい。
