ロシア軍は4日、ウクライナ南部にあるザポロジエ原発を砲撃、制圧した。原発は一部が運転中で、史上初の稼働原発への軍事攻撃となった。
原発への攻撃は大惨事となる危険をはらむ。決して許されることではなく、その非道に戦慄(せんりつ)するばかりだ。
ザポロジエ原発は原子炉6基を有し、ウクライナの総電力の約2割を担う。欧州でも最大級の原発だ。
国際原子力機関(IAEA)は深刻な危険が生じるとして攻撃停止を訴えた。
同国の原子力当局は1号機の関連施設が損傷したものの安全性に問題はなく、周辺の放射線量に異常はないと発表した。
ロシアには、重要インフラを手に入れることで、ウクライナへの圧力を強化する狙いがあるとみられる。
今回のウクライナ侵攻では旧ソ連時代の1986年に大事故を起こしたチェルノブイリ原発も占拠した。同原発は廃止されたものの、放射性物質が貯蔵されている。
プーチン大統領は核兵器行使を示唆する発言もしている。ウクライナ国内にある「核」を押さえ、ロシアが今後どう出てくるのか。そこを注視しなければならない。
戦時に文民を保護するためのジュネーブ条約では、危険な力を内蔵する工作物等の保護が定められており、その中には原発も含まれる。
ロシアはジュネーブ条約批准国であり、戦時の原発への攻撃は国際法違反に当たる。だが国際ルールはいとも簡単に破られた。戦時下の原発防護の難しさがあらわになった格好だ。
岸田文雄首相はロシアによるザポロジエ原発への攻撃に関し「決して許されない暴挙で、東京電力福島第1原発事故を経験した国として最も強い言葉で非難する」とウクライナのゼレンスキー大統領に伝えた。
首相は国家安全保障会議(NSC)で情報収集と分析に当たるよう指示した。国内原発の「守り」についても十分にチェックしてほしい。
「紛争の武器として使えるほど危険な施設だと感じた」「核兵器を使わず、核兵器の恐怖をもたらす攻撃だ」
原発への砲撃を受け、国内の原発立地地域からは、強く懸念する声が上がった。
戦争で原発が破壊され、大量の放射性物質が拡散すれば、大勢の人々が被ばくする状況が予想される。
今回の攻撃は、原発が大きな危険をはらんだ施設であるという当たり前の事実を突き付けたといえる。
本県にも東電柏崎刈羽原発が立地する。多くの人々が日常を奪われ、避難を強いられた福島第1原発の未曽有の「原発震災」から、間もなく11年だ。
あの時を思い起こし、大きな不安を覚えた県民は少なくないのではないか。
福島原発事故の記憶の風化が心配される中で、改めて原発のリスクを見つめたい。
