輪島塗の工程を親切に教えてくれた職人さんはどうしているだろう。元気な声で新鮮な地魚を売っていた、朝市のおばちゃんの悲嘆に暮れる姿が目に浮かぶ

▼昨年秋、取材で訪れた石川県輪島市があんな姿になるとは。テレビに映し出された地震当日の炎と黒煙、翌朝の焼け野原の光景にぼうぜんとした。輪島の朝市は日本三大朝市の一つとされ大勢の観光客が来る。伝統工芸の輪島塗の店も軒を並べていた。その一帯が焼失した

▼近くのビルが横倒しになった惨状も信じられない。取材で立ち寄った漆器製造の老舗だった。店内では職人が丹精込めて作った商品を数多く販売していた。ビルは隣の建物を押しつぶし、中にいた人が亡くなった。被災者からは「何もかも失った」との悲痛な声が出る

▼焼け野原で思い出すのは、2016年12月22日に発生した糸魚川大火だ。店舗の火災が強風で飛び火し、147棟を焼いた。木造住宅が密集していた点など、輪島と共通する部分がある

▼今回の地震で本県を含む北陸地方は大きな被害を受けた。まずは命を救わねば。その後は、復旧・復興の長い道のりが待っている。糸魚川は住民同士の支え合いや県内外からの支援で、約6年かけて街並みを再興した

▼ある輪島の漆器店は工場などが全壊し、建設中だったギャラリーも焼け落ちた。それでも、ウェブサイトでこう宣言した。「諦めません。必ず再スタートします。日本の素晴らしい漆器文化を継承していきます」 。不屈の言葉が胸に響いた。

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