今年こそ戦火がやみ、多くの人命が無残に奪われる悲劇をなくしたい。日本をはじめ国際社会は、外交努力に全力を挙げなければならない。
「緊迫の1年になる」。岸田文雄首相は年頭会見や所感で、ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢、主要国での選挙、東アジアの安全保障環境の複雑化などを列挙し、指摘した。
その上で、「外交力を駆使して難局を乗り越え、日本ならではのリーダーシップを発揮する」と表明した。
「外交の岸田」を自負する首相は、言葉だけではなく、実行力が問われる。平和国家として日本の国際的役割を果たし、存在感を示してほしい。
イスラム組織ハマスの奇襲攻撃で始まったパレスチナ自治区ガザでのイスラエルとハマスとの戦闘は越年し、7日で3カ月になった。
◆やまない二つの戦争
イスラエル軍の過剰ともいえる攻撃により、ガザでは日々多数の死傷者が出て、2万人を超える人が亡くなった。その7割が、子どもや女性だ。
人道危機も深まるばかりだ。世界食糧計画(WFP)によると、ガザ全人口の約4分の1に当たる57万人余りが飢餓状態にあるという。
イスラエルのネタニヤフ首相は、「戦闘継続が人質奪還の唯一の方法だ」とし長期戦の構えだが、人質の解放は、戦闘休止中に行われただけだ。強硬姿勢をやめ、人質解放と停戦の交渉に舵(かじ)を切るべきではないか。
ロシアのウクライナ侵攻は、昨年末に開戦後最大規模の空爆があった。ウクライナ側の反転攻勢は難航し、膠着(こうちゃく)状態が続いている。長引く侵攻に欧米では支援疲れが見える。
最大の支援国の米国では議会が合意できず、欧州連合(EU)は一部の国の反対で、それぞれ支援の予算を見送った。
今年早期に再協議するが、支援が不十分なまま戦闘が長引けば、兵力に勝るロシアを利する。武力で他国の領土を蹂躙(じゅうりん)するロシアの暴挙が許されることは、絶対にあってはならない。
二つの大きな戦争に直面する中、残念なのは大国間の利益が衝突し、国連安全保障理事会が拒否権の行使により機能不全に陥っていることだ。
戦闘を食い止めるには、安保理改革などで有効な仕組みづくりを模索せねばならない。
11月には米大統領選がある。結果が日本を含む世界情勢に影響を及ぼすことは間違いない。
民主、共和両党の指名争いがこれから熱を帯びる。現職バイデン大統領とトランプ前大統領による再対決が有力視される。
バイデン氏は81歳、最高齢の大統領だ。加齢による心身の衰えが懸念される。返り咲きを狙う77歳のトランプ氏は再び、分断政治を招きかねない。
世論調査では6割以上が2人の対決を望んでいないという。第3の有力候補が現れるか、注視したい。
ロシアでは3月に大統領選が行われる。プーチン大統領は既に出馬を表明し、通算5期目が確実視されている。
当局は反プーチン勢力を弾圧し、政権の意に沿わない候補を排除している。プーチン氏が再選されても、侵攻の正当化にはならない。
◆欠かせない日中対話
アジアでは台湾総統選が今月実施される。結果は、台湾の統一に武力行使を辞さない構えの中国・習近平指導部に、影響を与えることは必至だ。中国は台湾周辺で軍事演習を行い、台湾有事のリスクを高めている。
日本は中国の軍事力増強や台湾有事に備え、鹿児島県から沖縄県にかけ防衛体制を強化する「南西シフト」を進めている。地対空、地対艦のミサイル部隊も配備した。
偶発的な衝突など不測の事態が起きぬよう、意思疎通を図るチャンネル確保は欠かせない。
岸田首相と習主席は昨秋、1年ぶりに会談した。東京電力福島第1原発処理水や邦人拘束などの問題を巡る溝は埋まらなかったが、今年も懸案の解決へ対話を重ねてもらいたい。
ミサイル発射を繰り返す北朝鮮は気がかりだ。軍事偵察衛星打ち上げ成功はロシアの支援が指摘され、脅威は増している。
拉致問題は一向に進展しない。拉致被害者の親世代の高齢化が進み、一刻の猶予もない。岸田内閣は、横田めぐみさんら被害者の早期帰国へ、もっと本腰を入れねばならない。
