「冷や水を浴びせる」という。物事を始めようと意気込んでいるところを妨げる。ことしは年初に、能登半島地震に揺さぶられた。冷や水どころではない。被災地には連日のように冷たい雨や雪が降り注いでいる

▼現地の惨状を伝える日々の紙面やニュースに心が痛む。犠牲者は増え続けている。交通が寸断され集落の孤立も続く。寒さに震える人々がいる。被害の全貌はいまだに明らかになっていない

▼本来なら正月は、昨年の一切合切をリセットして心機一転、新たなスタートを切る好機だった。心機一転を英語にすると「turn over a new leaf」ともいう。leafは書物のページも意味するから、直訳すれば「新しいページをめくる」となる

▼希望とともに新年のページをめくったとたん、こんな惨事が待ち受けていようとは。忌まわしい現実をリセットしたい。詮ないことと分かりつつ、そんな思いで避難生活を送っている人もいるかもしれない

▼〈災難は馬に乗ってやってくるが、歩いて去って行く〉。北欧のことわざを思い出す。発災は一瞬だが、その影響は長く残る。関係者の懸命の努力にもかかわらず、依然として多くの人々が厳しい環境に置かれている。切なさが募る

▼動詞のleafには、植物が葉や芽を出すという意味がある。被災地はいずれ、復興に向けて歩き出すことになる。新たな芽吹きの時が来ることを信じたい。冷や水を浴びせられようと、地道に復興のページを一枚ずつ繰るのみだ。

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