今年の大河ドラマ「光る君へ」が始まった。初回の視聴率は12・7%で過去最低だった。NHKの看板番組は出だしからつまずいた形だ

▼もっとも脚本を担当する大石静さんは、低視聴率を予測していたようである。文芸春秋1月号で元NHKアナウンサーの有働由美子さんと対談して「平安時代の大河ドラマなんて、誰が見るんだって思いません?」と話していた

▼制作発表の記者会見の時、プロデューサーが「題材は紫式部で平安時代です」と言った途端、記者席が静まりかえって「ヤバい!」と思ったという。1980年代から「ふたりっ子」「オードリー」など人気ドラマを数多く送り出してきただけに視聴率には一家言ある

▼「気にしないことはないですが、視聴率がどうであろうと、信じた道を最後まで突き進める力強い台本であるかどうか、それを常に自分に問いかけます」。脚本家のプライドがにじむ

▼初回の放送を見てみた。天皇をはじめ上流貴族の荘厳な住まいと、色鮮やかな衣装が印象に残った。絵巻物の「実写」のようだった。大河ドラマは合戦シーンがあってこそという声もあるが、今作はそうしたシーンはないという

▼ロシアがウクライナに侵攻した2年前から、破壊された建物や暗い緑の軍服をニュースで見ない日はなかったのではないか。昨年はパレスチナ自治区ガザも戦禍に巻き込まれた。戦いから目を背けるわけにはいかない。けれど、せめて日曜の夜のひとときは千年前のみやびな世界に浸るのもいい。

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