選挙で示された台湾の民意は尊重されねばならず、軍事的、経済的圧力で政治をゆがめることは許されない。中国は台湾と対話する道を探ってもらいたい。
台湾総統選が行われ、中国との統一を明確に拒否する与党、民主進歩党(民進党)の頼清徳副総統が初当選した。5月に就任する。
対中融和路線の最大野党、国民党の侯友宜・新北市長と野党第2党、台湾民衆党の柯文哲・前台北市長が敗れた。
1996年に総統の直接選挙が実現して以降、同じ政党が初めて3期連続で政権を担う。有権者は米国との連携を重視する蔡英文政権の路線継続を支持した。
頼氏は内科医を務めた後、立法委員(国会議員)や台南市長を歴任、党のホープと目されてきた。
行政院長(首相)就任直後に「実務的な台独(台湾独立)工作者」と自称した。このため台湾を領土と見なす中国は頼氏を独立派として敵視し、個人攻撃してきた。
当選後の会見で、頼氏は「対抗ではなく対話によって平和共存を実現させなければならない」と強調、中国に対話を呼びかけた。
衝突リスクを回避しようとする外交姿勢は尊重されるべきだ。中国側は台湾海峡の安定に向け、蔡政権とは一切拒否していた対話に乗り出すことが求められる。
結果を受け、中国の王毅外相は「中国は完全統一を実現する」と従来の主張を繰り返した。
中国はこれまで以上に台湾周辺での軍事演習や戦闘機飛行を繰り返すとみられ、経済面では一部台湾製品への関税優遇措置を停止する分野の拡大を検討している。
中国が重視すべきことは、今回の選挙で3候補とも統一でも独立でもない「現状維持」を主張し、有権者も望んでいることだ。
台湾に対して強硬策を取れば、住民の間で中国への警戒や反発が高まり、結果的に頼政権を後押しすることになるかもしれない。
一方、総統選と同時実施の立法委員選で、民進党は単独過半数を維持できず、第2党に転落した。中国は野党勢力を通じて影響力を強めるとみられる。
選挙戦では不動産価格の高騰、若者の低所得への対応、原発の是非など内政問題も争点になった。
新政権は厳しい議会運営を強いられるだろう。中国と向き合うために台湾社会をいかにまとめていくかが課題になる。
台湾との連携強化を進めるバイデン米大統領は「私たちは独立を支持しない」と述べた。
現状維持が望ましいとの立場で米中関係の安定化に配慮したとみられる。台湾有事を避けるためにも、意思疎通を重ねて中台関係の悪化を防いでもらいたい。
日本は日台非政府間の実務関係を維持し、中台双方と緊密な経済関係と人的交流を持つ立場で橋渡しに尽力するべきだ。
