政権与党の議員や派閥の会計責任者らが、一斉に刑事処分される異常な事態になった。自民党の責任は極めて重大だ。
党総裁である岸田文雄首相は、政治資金や派閥の在り方などで早急に改革を断行し、地に落ちた政治への信頼を取り戻すために政治生命をかけねばならない。
自民派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で東京地検特捜部は19日、政治資金規正法違反の罪で、安倍派(清和政策研究会)と二階派(志帥会)、岸田派(宏池会)の会計責任者ら3人を在宅起訴や略式起訴した。
還流を受けた側では、同法違反で安倍派の大野泰正参院議員と秘書を在宅起訴、谷川弥一衆院議員と秘書、二階派会長の二階俊博元幹事長の秘書を略式起訴した。大野、谷川両氏は離党した。
安倍派の衆院議員では池田佳隆容疑者(自民除名)が逮捕勾留されている。
これだけ多くの関係者が立件されたことを、自民は深刻に受け止めねばならない。
残念なのは、特捜部が派閥の幹部議員の立件を見送ったことだ。
2018年から5年間の裏金額は安倍派が約6億円、二階派も3億円超に上る。幹部議員の立件見送りにより、誰が指示して裏金づくりが行われたかなど、事件の全容が解明できない。
派閥の事務総長を務めた幹部もいる。特捜部は聴取したものの、指示や了承を示す証拠が確認できず、会計責任者との共謀を問うのは困難だと判断した。政治資金規正法の限界が露呈したといえる。
安倍派の現事務総長、高木毅前国対委員長は、会計には関与していないと話したが、事務総長は活動資金を配布する立場にあり、会計書類に目を通さないとは考えにくいとの指摘もある。
市民感覚とはかけ離れた巨額の裏金にもかかわらず、幹部議員が立件されないのでは、国民は納得できない。幹部議員の政治的な責任を問われている。岸田首相は厳しく対応すべきだ。
自民は事件の実態を有権者に説明しなければならない。還流を受けた全議員は金の使途を有権者にきちんと話す必要がある。全容が明らかにならない限りは、国民の不信は払拭できるはずがない。
自民は、岸田首相が本部長となる政治刷新本部を立ち上げ、政治資金の透明化や規正法の罰則強化などの議論を始めた。
しかし、共同通信社の世論調査では、事件の再発防止に向けた自民党の対応に「期待する」と答えたのはわずか22%だった。
事件を受け、国民の政治離れがさらに進むことが懸念される。
自民はリクルート事件など過去に何度も「政治とカネ」の問題を繰り返してきた。二度と起こさないように、小手先ではない抜本改正をしなければならない。