セーフティーネットが機能せず、複数の要因が重なって起きた可能性がある。再発防止に向けて丁寧に議論を重ね、複層的に対策を示すことが求められる。

 羽田空港で海上保安庁と日航の航空機が衝突した事故で、国土交通省は、有識者を交えた対策検討委員会の第1回会合を開いた。

 元管制官や元パイロット、航空工学の専門家らが委員を務め、滑走路誤進入対策などを議論し、夏ごろに中間取りまとめをする。

 検討委は、運輸安全委員会による原因究明の調査結果を受けて抜本的な対策に乗り出す。

 安全に資する内容は順次明らかにし、結果がまとまる前でも必要に応じて提言し、現場の不安を和らげるよう努めてもらいたい。

 今回の事故では、管制官とパイロットの交信のやりとりが焦点の一つになっている。

 交信記録によると、管制官は、日航機に着陸を許可した後、海保機に離陸順が最優先であることを示す「ナンバー1(1番目)」と伝え、滑走路手前の停止位置まで地上走行するよう指示した。

 管制官は離陸許可を出していないが、「ナンバー1」と伝えられた海保機の機長は、離陸許可が出たと思い込んだ可能性がある。

 事故を受け、国交省は離陸順の伝達を全国の空港で見合わせる緊急対策を実施している。これに限らず、交信で誤解される恐れがある表現や用語を精査し、見直すことが大事だろう。

 ヒューマンエラーを防ぐために、滑走路への誤進入を管制官に注意喚起する装置が、きちんと生かされなかったことも事故につながったと考えられる。

 海保機は滑走路上で約40秒間停止した。誤進入を検知し、管制官側の画面は滑走路が黄色に、航空機が赤色に表示されたが、管制官は気付かなかったとみられる。

 国交省は緊急対策として同様の装置がある6空港で画面を常時監視する担当を配置した。この装置にアラーム機能を追加するかどうかなども議論する。

 滑走路手前の誘導路には、飛行機などにとって赤信号の役割を果たす「停止線灯」がある。

 しかし、現場の停止線灯は、工事のため使用できなかった上、当時は視界が良く、運用が必要な基準にも達していなかった。

 1日最大1300機が離着陸する日本最大の「混雑空港」である羽田空港の在り方についても考える必要があるだろう。管制官に過重な負担がかかっていないかも検証が欠かせない。

 専門家は「ヒューマンエラーの要因は確認とコミュニケーションの不足に尽きる。システムに依存しすぎるリスクもある」と語る。

 エラーがあっても事故につなげない仕組みが必要だ。ハードとソフトの両面で安全対策を強化していくべきだ。