〈土に根をおろし、風とともに生きよう。種とともに冬を越え、鳥とともに春を歌おう〉。宮崎駿監督のアニメ映画「天空の城ラピュタ」でヒロインが口にした、故郷に伝わる歌の一節だ

▼新潟市出身の声優よこざわけい子さんが演じたヒロインは、さらに断言する。「土から離れては生きられないのよ」。ファンの間では、よく知られた名せりふである

▼20年前の中越地震で被災した人々のことを思い出す。避難生活を続けながら「畑に行きたい」「土をいじりたい」といった声をよく聞いた。まさしく「土に根をおろし」生きてきた人々だった

▼地元から離れて避難生活を送りながら、自宅の畑に通う人がいた。仮設住宅の近くに設けられた畑で、くわを振るう人がいた。あの人々にとって、土を耕して作物を育てる営みは、生きることそのものだったのかもしれない

▼能登の地震被災地を上空から撮影した映像には、山の斜面に連なる棚田が見えた。かの地にも、土とともに生きる人々が数多くいたのだろう。学校の体育館などから旅館やホテルに移る2次避難に二の足を踏む人がいる。仕事や防犯上の理由のほかに「土から離れては生きられない」といった思いもあるかもしれない

▼「身土不二」という言葉がある。人間の身体と、その人が生きる土地は切り離せない。そんな意味のようだ。住み慣れた土地を離れるとなれば、身を裂かれるような思いだろう。そうした心情に寄り添いたい。せめて少しでも先の見通しが立てられれば。

朗読日報抄とは?