「エコノミックアニマル」。古い言葉になったが、経済的な利益ばかりを追い求める人を意味する。1960年代、わが国は驚異の経済成長を続けた
▼当初、欧米などでは日本人を指す場合、その才覚に対する褒め言葉でもあったという。しかしあまりに猛烈な働き方に、皮肉交じりの色合いが強まった。当時の主要指標だった国民総生産(GNP)で日本は68年、西ドイツを抜いて、米国に次ぐ世界2位の経済大国になる
▼だが、バブル崩壊の1990年前後から「失われた30年」といわれる低迷が続く。現在の主要指標である名目国内総生産(GDP)では、2010年に中国に抜かれた。昨年はドイツに再逆転され、4位に転落した模様だ
▼GDPを1人当たりに換算すると、国民の経済的な豊かさを比較できる。日本はこの数値でも先進7カ国でイタリアに抜かれ、最下位になった。ドイツは日本より4割も多い。一方でドイツは時短先進国とされ、1カ月間の夏季休暇も珍しくはない
▼効率のよい働き方が浸透している。ドイツ在住のジャーナリスト熊谷徹さんはさらに、自由な時間を何より大切にする考え方が主流だと指摘する。頑張りすぎない、ほどほどの暮らしが最優先という(「ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が『豊か』なのか」)
▼日本では、春闘がきょう事実上スタートする。賃上げが大切なのは当然だ。ただ、本当の豊かさは賃金だけでは量れない。ゆとりある私生活も実現しなければ世界に置いていかれる。