自らの暴挙を正当化し、不都合な情報は排除する。むき出しの圧政をどこまで強める気か。

 ロシアのプーチン大統領は、軍に関する「偽情報」の拡散に対し最長で懲役15年を科す法案に署名した。

 外国人も対象で、メディアが侵攻や戦争といった言葉を使うことを事実上禁じている。

 曖昧な規定で恣意(しい)的運用が可能だ。当局が気に入らない報道に圧力を加えて、萎縮させる狙いがあるとみていい。

 ロシア当局はフェイスブックやツイッター、西側メディアへのアクセスも遮断した。

 ロシア国民に届く情報を取り締まり、反戦世論の高まりを押さえつけるものであり、断じて容認できない。

 法制定を受けて、英BBC放送や米国のCNN、ブルームバーグ通信などは記者拘束のリスクを懸念し、ロシアでの報道活動の一時停止を決めた。

 編集長が昨年のノーベル平和賞を受賞したロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」もロシア軍の軍事行動に関する記事をウェブサイトから削除すると発表した。

 ロシアでは2月24日のウクライナ侵攻以来、各地で抗議デモが起き、当局は参加した多くの市民らを拘束している。

 政権に批判的な言動に耳を傾けずに圧殺する。こうしたプーチン氏の強権姿勢は、民主主義を踏みにじるものだ。

 ロシアがウクライナで行っているのは、プーチン政権が称している「軍事作戦」などではなく、隣国の罪のない多くの市民の命を奪う蛮行だろう。

 そもそも「偽情報」を流してきたのはプーチン氏本人だ。

 プーチン氏は、ウクライナの親欧米政権がロシア系住民を虐殺し、北大西洋条約機構(NATO)の主要国がウクライナのネオナチを支援していると、明確な根拠も示さず訴えている。

 ウクライナ侵攻を正当化するつもりなのだろうが、独善的な主張が認められるはずがない。

 ロシアの偽装工作は、ウクライナ南部のクリミア半島を強制編入した際にも行われるなど、常套(じょうとう)手段になっている。

 国内では独立系メディアや反体制派への弾圧を強め、言論の自由を抑圧してきた。

 ソ連の秘密警察、国家保安委員会(KGB)出身のプーチン氏は、ソ連時代の恐怖政治にロシアを戻そうとしているとしか見えない。

 ロシアの攻撃により、ウクライナから150万人以上が周辺国に避難している。欧州は第2次世界大戦後、最悪の「難民危機」だとされる。

 一方、ロシアやベラルーシの作家らは連名でウクライナ侵攻を批判する声明を出し、携帯電話やメールなどあらゆる手段を使ってロシア市民に真実を伝えるよう呼び掛けた。

 プーチン政権の非道を一刻も早く止めなければならない。国際社会は、ロシア市民と連帯して言論支配に抗し、反戦の動きをしっかり支えていくことが求められる。