なぜ転ぶのが嫁なのか不思議だった。「転嫁」という言葉である。自分の過ちや責任を他人になすりつけることだ。コスト上昇分を価格に上乗せする際にも使われる

▼「嫁」という字には他家に「とつがせる」という意味がある。「よそにやる」ということだから、責任の所在を移してしまう「かずける」という意味合いも帯びるようになったらしい

▼やむを得ない、正当な価格転嫁なら一定の説得力はある。しかし責任転嫁となると、多くの場合はずるい行為と受け取られる。そう言いたくなる場面が多い。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件だ

▼立件されたのは一部議員と事務方にとどまり、歴代事務総長ら幹部の刑事責任追及は見送られた。「資金管理は完全に秘書に任せていた」と話した幹部もいた。責任を秘書らに押しつけてはいないか

▼事務方は幹部の指示や了承なしには動けなさそうなものだ。しかし安倍派では、歴代事務総長らが「会長案件だった」と口をそろえ、不正への関与を否定した。時効にかからない2018年以降の会長2人は、いずれも死去している。「死人に口なし」とばかりに、自らの責任に頰かむりしてはいないか

▼派閥の解消論議がかまびすしいが、派閥がなくなれば即、問題が解決するわけではない。派閥の行方に目を奪われるばかりでは本質を見失う。裏金の具体的な使途も明らかになっていない。事実の究明は不可欠だ。国会は週明け、この問題を集中審議する。言論の府の責務が問われる。

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