高い精度で悲願を果たした。完璧な成功ではないとはいえ、宇宙開発への大きな一歩だ。さらに技術を磨いて課題を克服し、次のステップへ進んでもらいたい。

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した小型探査機「SLIM(スリム)」が、日本で初めて月面に着陸した。世界では旧ソ連、米国、中国、インドに続き5カ国目の快挙になる。

 JAXAによると、目標地点から100メートル以内に降りる「ピンポイント着陸」に成功した。特殊カメラでの撮影や小型ロボット2機の運用もできたという。

 スリムは20日午前0時ごろに最終降下を始め、約20分後に赤道南側の「神酒(みき)の海」にあるクレーター付近に計画通りに着陸した。

 これまで他国の無人探査機の着陸精度は目標との誤差数キロ~十数キロだったが、今回の精度は世界でも前例のない10メートル以下で、3~4メートルだった可能性もあるという。

 日本は昨年3月にH3ロケット1号機を発射して失敗した。今回改めて高度な技術力を世界に示せたことは喜ばしい。

 重力がほぼない小惑星と比べ、地球の約6分の1の重力がある月への着陸は難度が格段に高い。

 月には水が氷の状態で局所的に存在するとされ、探査には複雑な地形への対応が求められている。鍵を握るのが「降りやすい場所」ではなく、「降りたい場所」に降りる技術だ。

 ピンポイント着陸では、事前入力した月面の地図と飛行中に撮影した画像を照合する「画像照合航法」が肝となった。

 専門家によると、今回の着陸技術には各国が必要とする汎(はん)用性がある。日本は長年、特殊技術を要する「一点物」の開発を目指してきたが、その在り方が変わる時期にきたという見方もある。

 宇宙の覇権争いが再燃している。各国が月探査にしのぎを削るのは、水資源を得る狙いがある。月を拠点にできれば、火星探査など宇宙の活動領域が広がる可能性が高まるからだ。

 将来的に月探査の主導権は米中が握るとみられており、日本が存在感を発揮できるのは高度な技術だ。各国が欲するような技術の開発へさらに研さんを積みたい。

 一方で、スリムには課題も残った。着陸直前でエンジントラブルがあった。着陸姿勢は計画とは異なり「逆立ち」のようになった。

 斜面に倒れ込むようにして機体の安定を図るはずの「2段階着陸」は実証できなかった。

 太陽電池パネルは西側を向いており、光が当たらず発電できていない。太陽光を捉えれば、月の起源に迫る鉱物調査といった月面での追加観測ができる可能性はあるものの、先行きは分からない。

 JAXAはトラブルの原因を究明し、宇宙探査拡大に向けた新たな知見を獲得してほしい。