バスに乗り車窓を眺める。面白そうな映画のポスターが目に入り、新しい店に気付く。街の様子がよく見えるのは、自分で運転している場合と違ってよそ見ができ、歩くときより視点が高いからだろう

▼佐渡で勤務していた数年前、同僚と路線バスを使った旅の連載をした。時刻表をにらんで作った旅程は、島内の全酒蔵を試飲しながら回るなど全5コース。海沿いの道ではバスの高い座席から海中まで見下ろせて、移動時間も楽しんだ

▼その路線バスの運転手が全国的に不足している。佐渡でも深刻だ。退職する人数に補充が追いつかない。2023年春から一部路線で休日の運転を全便取りやめた。さらにはOBや貸し切りバスの担当者が路線バスの運転に回り、しのいでいるという

▼危機的な状況を打開しようと市や運行に当たる新潟交通佐渡は先月、運転手確保の緊急策を打ち出した。新規に運転手になった人には最大で100万円を支給。移住し就業する人も見込み、見学や面接の旅費、住宅の用意も盛り込んだ

▼運転手の募集には過去3年、問い合わせさえなかったという。だが、緊急策公表後は島内外から応募や問い合わせが複数来たと担当者が弾んだ声で教えてくれた

▼緊急策は市民の交通網の維持が目的というが、佐渡では世界遺産登録に向けた動きも進む。増加が見込まれる国内外からの観光客は、金山以外へも足を運ぶだろう。路線バスも大切な移動手段だ。車窓の外に目をやれば佐渡の魅力がそこここに広がっている。

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