「原爆疎開」として知る人は多い。1945年8月、広島市に続いて長崎市にも原爆が投下されると「次は新潟だ」といううわさが広がった。県知事は新潟市民の緊急疎開を決める。大混乱の中、まちは瞬く間に無人と化したという
▼その後も新潟市は混乱に陥ったことがある。49年2月には、東北大の研究者が早ければ1、2カ月以内に新潟市北方で大地震発生の恐れがあると警告した。前年の福井地震では3700人以上が犠牲になっていたから、県民や行政は激しく動揺した。県と市は大がかりな防災訓練も実施した
▼混乱や非常事態の中では、人の心が不安定になるのはやむを得ないのかもしれない。だが、そこに流言やデマが加わると不安が増幅され、混乱をさらに拡大することになる。関東大震災ではデマが被災者の不安をあおり、朝鮮人らが虐殺される悲劇が起きた
▼能登半島地震の被災地では、心温まる支援が広がっている。一方、交流サイト(SNS)を通じた義援金詐欺や、生成AI(人工知能)で作られた偽動画が流れていると指摘される
▼災害時のデマは近年巧妙化している。2016年の熊本地震では、動物園のライオンが逃げ出したという画像付きのデマを拡散させたとして逮捕者が出る事態になった
▼「流言は智者に止まる」。内閣府の防災担当がSNSに記したこの成句が共感を集めているという。根も葉もないうわさが広がっても、賢明な人は吹聴しない。今は、被災者の涙を止めるすべこそ広めなければ。