能登半島地震の影響で同じ石川県の金沢市は観光客が激減しているという。「苦しんでいる人たちの近くで、楽しんだり遊んだりするのは申し訳ない」。こんなふうに遠慮しているのかもしれない

▼とはいえ、能登を支えるために石川県全体を支えることも重要ではないか。観光は地域の重要な産業だ。幸い被害が少なかった金沢を訪れることはきっと復興の下支えにもつながる

▼災害のたび、被害が少ない周辺地域の観光などが敬遠される風評被害が指摘される。現地の情報が十分でないことも一因だろう。同じ石川県でも、甚大な被害を受けた地域とそうでない地域がある。ニュースが伝える事実も、膨大な事柄の一部でしかないはずだ。物事を多面的に理解するのは簡単ではない

▼もともと、人には聞こえない音や見えないものもたくさんある。人間が聞き取れる周波数は20~2万ヘルツ。年を取ると高い音が聞こえにくくなるように、人の耳では捉えられない音は多い。人の目で見える電磁波は可視光と呼ばれるが、赤外線や紫外線は認識できない。人が見えているものは、この世界の一部ということになる

▼加えて人は自分にとって都合の悪いことは見ず、聞かなくなりがちだ。広く周りを見渡さないと視野が狭くなる。必要な情報も入ってこなくなる。そうなると、あらぬ方向に進んでいても気づかないことも起こり得る

▼自分に問いかける。見えていないもの、聞こえていない音はないか。多くは困難でも、少しでもすくい取れれば。

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