海面に浮かぶように真っ平らな岩場が広がる。佐渡市沢崎地区の海岸には「隆起波食台」と呼ばれる不思議な地形が広がる。かつての海底が大地震によって持ち上げられてできたという。1802年に起きた「小木地震」である

▼巨大な揺れは地盤の隆起を引き起こした。港ははるか沖まで干潟になってしまい、その場所は後に田になったと伝える文書が残っているという。家屋の倒壊が相次ぎ、火事も起きた。犠牲者も多かったようだ

▼1964年の新潟地震では、震源に近い粟島が1メートルほど隆起した。やはり海岸が干上がり、砂浜に残された船もあったという。島にはそれまで水田があったが、山から水が引けなくなり、稲作ができなくなった

▼能登半島地震では隆起によって、半島北側の海岸線が約90キロにわたって沖側に移動した。上空からの映像を見ると、以前の海底が陸地になり、延々と続いていた。自然の猛威に言葉を失った

▼輪島市で確認された隆起は最大4メートルにもなった。海底が干上がり、船を出せなくなった漁港もある。本県と同様、日本海の恵みを享受してきた地域だ。「これからどうすれば…」。ぼうぜんとする漁師の姿が切ない

▼港の復旧に向けた道筋はなかなか見えない。復旧を諦めざるを得ない港もあるかもしれない。厳しい現実が横たわる。一方で、海底の隆起は天然の防波堤となって津波の被害を軽減させた面もあったようだ。先人は自然の営みに適応して生きてきた。これからも、そうあるべきなのだろう。

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