パレスチナ自治区ガザでの戦火が中東各地に飛び火し、緊張が高まっている。米軍の報復攻撃により、中東の安定化がさらに遠のくことが懸念される。

 関係する国や組織の自制を求めたい。一刻も早くガザでの停戦が実現するよう、国際社会は努力を続けねばならない。

 ヨルダン北東部の米軍施設に無人機攻撃があり、米兵3人が死亡、40人超が負傷した。

 ガザでイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が始まって以降、米兵が死亡したのは初めてだ。

 米側は、親イラン武装勢力の連合体の攻撃と分析した。米メディアは、バイデン政権が米軍の報復計画を承認したと報じた。イラクとシリアで数日にわたり複数回攻撃するという。報復が連鎖し、戦火が一層拡大する恐れがある。

 ガザでの戦闘を発端に、中東では親イラン組織が活発化し、イラクで60回以上、シリアでは90回以上も駐留米軍を攻撃している。

 イエメンの武装組織フーシ派は、紅海で商船や米駆逐艦にミサイル攻撃を仕掛けている。レバノンの民兵組織ヒズボラはイスラエルと交戦している。

 最大の懸念は、イランが米国やイスラエルと直接衝突するなど、イランを巻き込んだ「中東戦争」に発展することだ。

 イランは米国との全面戦争を望んでおらず、各地の親イラン組織に戦線を拡大しないよう求めている。制御が効かない部分もあるだろうが、イランは働きかけを強めてもらいたい。

 一方、イランが、シリアやパキスタンの反イラン勢力などに越境攻撃しており、看過できない。

 ガザでの戦闘を巡っては、国際司法裁判所(ICJ)が、イスラエルにジェノサイド(民族大量虐殺)を防ぐ「あらゆる措置」を取るよう命じる仮処分を出した。

 ガザ側の死者は2万7千人を超えた。犠牲の多くが子どもや女性で仮処分は当然だ。ICJの命令は国際法上の拘束力がある。

 米国が命令に理解を示し、欧州連合(EU)は「即時履行」を求めるなど、国際社会の停戦圧力は強まっている。イスラエル国内でも停戦交渉を求める反戦デモが相次いでいる。

 イスラエルは重く受け止め、停戦交渉へ移るべきだ。

 許されないのは、中立的立場にある国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員が、昨年10月のハマスによるイスラエル奇襲に関与したとされることだ。真相の解明が欠かせない。

 これに伴い、日米欧15カ国以上が、UNRWAへの資金拠出の一時停止を表明した。しかし、ガザではUNRWAの支援に強く依存し、長期化すれば人道危機がさらに深刻化する可能性がある。

 人道支援を滞らせないように、資金拠出を再開すべきだ。