立春前日のきょうは季節を分ける節分だ。「鬼は外」と豆まきをしたり恵方巻きをほおばったりと、家族の健康を願う家も多いだろう。能登半島地震の被災地では酷寒に震え、それどころでない人も大勢いる
▼石川県能登町は高齢化率50%を超す過疎地域だが、独特の節分行事を守ってきた。2018年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産になった「能登のアマメハギ」である。鬼の面などをつけた子どもたちが「アマメー」と叫び家々を回る
▼火鉢にあたってばかりいるとできる赤い斑点「アマメ」は怠け者の証し。それをはがすぞと脅かし、怠け心を戒めるのだ。しかし地震で町内の大半の家が被災し、この行事は中止になった
▼町の秋吉地区アマメハギ保存会の橋本忍会長(73)は「避難している家もある。とても回れる状況でないです」。中止は初めての経験という橋本さんは電話口で悔しさをにじませた
▼担い手が減って現在は休止状態だが、村上市の大栗田集落でも15年までこの習俗が続いていた。離れた場所で同じ風習がなぜ残っていたのか。秋田県のナマハゲと同じような「来訪神」であり、マタギや北前船が伝えたなど諸説あるようだ
▼村上市教育委員会の竹内裕学芸員(49)は「現地の被害や苦労は想像を超えます。なんとか貴重な伝統をつなげてもらえたら」と願う。「福は内」と叫んでも、今の被災地は招き入れる家を失った人があまりに多い。家がだめなら、人々の胸の内に。福が届く日の訪れを祈る。