きょうで88歳に。本来なら米寿を祝う節目である。「うれしいわけないでしょ。また一つ年をとったけど、何も進展していない。悲しいばかりです」。北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさんの母早紀江さんはため息をつく

▼拉致された当時13歳だった娘も10月には還暦の60歳となる。先日は2日続けて、自宅のテレビで国会中継を見た。最初の日は、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の集中審議だった

▼国政の課題が山積する中、政治家の不祥事を論議せざるを得ない現状に憤った。「能登の地震で苦しんでいる多くの人は、政治に一刻でも早く助けてほしいと願っているはずなのに…。悲しい国です」

▼金銭問題を巡るやりとりにむなしさが募った。「国会にいるどれだけの数の政治家が弱い立場の人への想像力、共感する魂を持っているのでしょうか」。嘆きがあふれた

▼翌日視聴したのは岸田文雄首相の施政方針演説だった。拉致問題について、家族が高齢化して「時間的制約」があり「ひとときもゆるがせにできない人道問題」と述べた。その言葉とは裏腹に、ここしばらく具体的な動きが見えない。早紀江さんは淡々と語った。「ぜひ言葉通りに行動していただきたい」

▼めぐみさんの弟2人は、平日は会社員として働き休暇は救出活動という多忙な日々を送る。合間に新聞をめくる。熱心に読むのは「首相動静」だ。首相ら政治家はやるべきことをやっているか。そこから何かが見えないか。家族は目を凝らしている。

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