「化け物が出そうな独特の空気感があった」。映画監督の富名哲也さんは佐渡の第一印象をこう振り返った。その神秘性に引きつけられ、構想を温めていた長編のロケ地に決めた
▼その作品「ブルー・ウインド・ブローズ」は、行方不明の父親が化け物にさらわれたと信じる少年「アオ」と家族の物語だ。オーディションで選ばれた佐渡の兄妹が出演。2018年のベルリン国際映画祭に公式出品された。ウイルス禍を経て公開され、母親役の内田也哉子さんと、19年に死去した内田裕也さんの親子共演も話題になった
▼タイトルを日本語に訳すと「青い風が吹く」。宮沢賢治の「青色の風は涅槃(ねはん)から吹く」という言葉から取ったという。富名さんは佐渡を「あちらの世界とこちらの世界の間にあるような場所」と形容する
▼佐渡に漂う“異界”のイメージが作品の舞台にふさわしいと感じたようだ。13年製作の短編「終点、お化け煙突まえ。」に続いて「化け物」が物語の主要な要素になっている
▼佐渡はかつて「流人の島」の側面があった。金山のほか、往事の面影を伝える史跡や神社仏閣が数多く残る。時の流れから取り残されたような荒涼とした場所もある。世の無常を感じさせる神秘性も、島の魅力の一つかもしれない
▼作品を鑑賞した人から「撮影地はどこ?」「行ってみたい」と問い合わせが届くという。ことし公開予定の長編2作目「わたくしどもは。」も全編佐渡で撮影された。次はどんな風景が銀幕を飾るのか、楽しみだ。