先日の本紙「記者つれづれ」に同僚記者が書いていた。雪が積もると空き家だと気づく物件がある。歩いた跡がなかったり、除雪していなかったりするからだ。雪が教えてくれるものがある

▼能登半島地震の被災地で活動するボランティアのスタッフが交流サイト(SNS)に投稿していた。家屋の倒壊で行方が分からなくなっていた猫が、雪の上に足跡を残していたことをきっかけに発見されたという

▼猟師はこの季節、雪の上で獲物の痕跡を探す。以前、津南町のマタギが取材に語っていた。ウサギには歩いた足跡を引き返す習性がある。途中で向きを変え、ぴょんと大きく飛び跳ねる

▼「居真似(いまね)」と呼ぶそうだ。跳ねることで、自分の居場所が追跡者に分からないようにするのだろうか。跳んだ場所や方向を見極めるために、マタギはさらに注意深く雪上を観察する。雪がもたらす情報が、山の恵みを得ることにつながる

▼普段の暮らしでも雪には教えられている。誰かが足を滑らせたような痕跡があればそろりそろりと足を運ぶ。慎重な運転を心がける。ノーマルタイヤなどもってのほかだ。一方で、めったに降らない地域で積雪があると、転倒や交通事故が多発する。雪からのサインにもう少し気をつけていれば、と思ってしまう

▼われながら、都会の人が雪で四苦八苦する姿を見ると、こんなふうに上から目線の感想を抱きがちになる。己の狭量にあきれつつ、雪から謙虚に学ぶ姿勢でいたいと改めて思う。冬はもうしばらく続く。

朗読日報抄とは?