「隅から隅まで、ずずずいーっと…」。歌舞伎の襲名披露などで役者が述べる「口上」である。舞台からのあいさつのほか、口頭で述べる行為やその内容を指す
▼「前口上」といえば本題に入る前の前置き。「切り口上」は感情を交えずにはっきり言う、改まった調子の話し方を意味する。「逃げ口上」は罪や責任を逃れようとして言う言葉である
▼最近よく耳にする逃げ口上がある。「政治活動の自由」という言葉だ。使途公開の義務がなく、政治資金規正法の抜け道との指摘がある政策活動費について、岸田文雄首相らはこの言葉を使って正当性を主張している
▼自民党では主として役職者らに支給される。2022年の総額は14億円超。これほど巨額なカネの使い道を明らかにせず、意のままに使えることが「政治活動の自由」なのか。これまで、さぞ自由を謳歌(おうか)してきたのだろう。公明正大に使ったのなら隠すことなどないはず。そんな嫌みも言いたくなる
▼政治活動の自由は憲法が保障する表現の自由に基づくとされる。本来は、国民は誰でも思想や信条を押しつけられず政治的な活動ができるという意味だろう。情報提供者の保護など、やむを得ず使途を明かせないケースはあるにしても、極めて例外的な措置であるべきだ
▼そう考えると、非公開を正当化するために「政治活動の自由」を挙げる口上は、とても褒められたものではない。政治家がこんな口上をはき続けるなら、観客席の有権者から退場を求めるヤジが飛ぶのでは。