対象拡大で一層懸念が増す。機密情報管理を名目に国民のプライバシーや知る権利が侵害されることはないか。国は恣意(しい)的な運用をしてはならない。

 政府は、経済安全保障上の国家機密の取り扱いを有資格者に限定する新たな「セキュリティー・クリアランス」制度を導入する方針を決めた。今国会に関連法案を提出する予定だ。

 クリアランスは、政府が身辺調査などを基に申請者に資格を与えるかどうかを判断するものだ。有資格者以外は機密情報を扱えないようにし、軍事転用可能な技術などの国外流出を防ぐ狙いがある。

 政府が目指す新たな制度では、主に取り扱うのは経済安保上の重要情報で、サイバー攻撃への対策や国際的な共同研究開発、供給網の弱点などが想定される。

 先進7カ国(G7)各国と足並みをそろえ、軍事と産業に使える技術やサイバー分野での日本企業の商機を拡大する意図もある。米中が対立し、それぞれ経済安保を重視していることも背景にある。

 気になるのは、政府が、漏えいすると安保に「著しい支障」が生じる恐れのある経済分野の情報を機密性の特に高い「特定機密」とし、特定秘密保護法を適用する方針を示したことだ。

 既存の特定秘密保護法は対象を外交や防衛、テロ防止、スパイ防止の4分野に限定し、経済安保分野は対象外だった。

 特定秘密保護法には、国が恣意的に秘密を指定し、国民の知る権利が侵害されかねないとの批判が根強い。対象が拡大されれば、その懸念はさらに強まる。拡大には慎重でなくてはならない。

 新制度が適切に運用されているかを外部から検証できる透明性の確保や、チェック機能の強化は欠かせないはずだ。

 新制度の導入により、政府による身辺調査を受ける人が、大幅に増える可能性が高くなることも、気がかりだ。

 政府は「本人の同意が前提」とするが、有資格者にならないと職務継続が難しくなりかねず、事実上の強制となる恐れがある。

 新制度の対象となるのは国家公務員のほか、企業の従業員、研究者らで、調査内容は犯罪歴、飲酒、薬物乱用、借金状況などに及ぶ。家族や上司も対象となる。

 プライバシー権の侵害を懸念する声が上がるのは当然だろう。

 把握した個人情報が適切に管理されるかも問われる。

 米国では、毎年、一定期間が過ぎるなどした情報の機密指定を解除しているという。日本も、情報管理に力を入れるだけでなく、指定解除の仕組みについても検討すべきではないか。

 企業活動の一環として情報を漏らした場合は、企業も罰せられる。経済安保強化が企業活動を萎縮させるようでは困る。