人があふれている所があると聞き、足を延ばした。場所は東京の築地。中央卸売市場が豊洲に移った後もなお、食のまちであり、築地場外市場は人気の観光地だという

▼行くと、店が密集した一帯は外国語が飛び交いにぎやかだ。浜焼きだろうか魚介のあら汁だろうか、いいにおいがどこからか漂ってくる。魚河岸の印象からすると意外だったのはイチゴのスイーツを売る店で、長い行列ができていた

▼ここ築地の地名は歴史をそのまま映す。海を埋め立て新たに築いた土地なのだという。大火からの復興を目指すために築かれた。その「明暦の大火」は1657年に起きた。焼失は江戸市街の6割に及んだともいわれる

▼大火の後、延焼を防ぐため空き地を設けたり、寺社を分散させたりすることになり、分散先となったのが築地だった。別の所にあった築地本願寺の前身も大火で焼けてしまい、移ってきた。しかしその本堂は関東大震災でまた失われてしまう

▼建て直されたいまの築地本願寺は、よく見る寺とは違い、異国のたたずまいがある。仏教発祥の地インドの様式を取り入れたらしい。木造でなく鉄筋コンクリート造り。とても大きな本堂は、国の重要文化財になっている

▼度重なる被災と再建の歩みを聞いてから訪ねたせいか、その建築と向き合うと感じるものがある。災禍から立ち上がろうとする強い意志だ。願いが込められた重厚さなのではないか。再建から90年たったいま多くの人が訪れている。見事な復興なのだと思う。

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