梅流しというものを、交流サイト(SNS)の動画で見て、知った。春らしい風流さをまとう呼び名だが、ところがどっこい。腸内環境を整える「腸活」に役立つ大根の食べ方だった

▼大根を半分くらい、かなり多めの水で2、3個の梅干しと一緒に柔らかくなるまで煮る。そこにみそを少々溶けば出来上がり。味は梅干しの塩味程度だから、そうおいしいものではない

▼鍋一つ分できた梅流しを、汁を飲み、大根を食べ、汁を飲み…と繰り返して、できるだけたくさん食べる。しばらくすると腸が活性化するのか、便秘解消になるという。効きがいいと、何度も手洗いを往復するのだとか

▼半信半疑で試してみた。すると効果てきめん、おなかが平らになった気分だ。これなら多少の食べ過ぎは水に流せる。もりもり食べ、数日後に再挑戦すると、どうしたことか。今度は腸がウンともスンとも言わない。ただ大根をたくさん食べただけで終わってしまった

▼食べて、出して、眠るという単純な行為が、人間にとってどれほど大切なことかと、思わずにいられない。能登半島地震で被災した輪島市を取材した同僚記者は、仮設トイレは行列ができ、携帯トイレを持ち歩いても、被災地には身を隠せる所がないとルポに書いていた。凍える寒さが続く半島で、被災した人々が置かれた窮状に胸が詰まる

▼暦は立春を過ぎた。梅のつぼみはそろそろ膨らみ始めただろうか。冬来たりなば春遠からじ。せめて被災地にだけは、一日も早い春の訪れを。

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