米国のバイデン大統領が「記憶力」を巡り、窮地に立っている。機密文書が私邸で見つかった事件では、検察官が「記憶力の悪い老人」とみなして、罪を問わなかった
▼国や人名の言い間違えが絶えない。昨年、岸田文雄首相も「大統領」と呼ばれた。81歳の誕生祝いに発したジョークでは、世界的人気歌手のテイラー・スウィフトさんを別の歌手と言い間違えた
▼正しい記憶は的確な判断を導く。特に政治家にとって記憶力は欠かせない資質だろう。米テレビ局の世論調査で8割以上が続投は無理と答えた。年を重ねても記憶力が確かな人もいる。だが国民は、史上最高齢のリーダーに核のボタンを預けていいのか心配しているようだ
▼わが国はどうか。記憶力の乏しい政治家ほど政界で長生きできるように感じてしまう。高額献金問題などで世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対し、国は解散命令請求をしている。その手続きの責任者である文部科学相が選挙で関連団体から支援を受けていたと報道された
▼しかし当の大臣は、推薦確認書の署名を認めるような国会答弁を一転させ「記憶がない」の一点張りとなった。自民党の裏金問題も、政治倫理審査会が開かれようと「記憶にない」「覚えてない」と連発されるのが目に見えるようだ
▼なぜなら、この審査会ではうそをついても罰せられない。出席義務すらないのだ。岸田首相は人ごとのように「説明責任」を繰り返すばかり。この国の政治家には「記憶力」は邪魔な能力なのか。