未曽有の被害を出した東日本大震災から11年となった。事故が起きた東京電力福島第1原発では廃炉に向けた作業が続き、原子炉から溶け落ちた核燃料(デブリ)取り出しや処理水放出への準備が進んでいる。

 懸念されるのは、節目の年を過ぎ、原発事故の記憶と教訓の風化が感じられることだ。

 福島県によると、避難者はいまだ約3万3千人に上る。復興は道半ばである事実を改めて受け止めなければならない。

 福島第1原発を巡り、国と東電の計画では、事故の30~40年後の廃炉完了を目指している。

 最難関はデブリ取り出しだ。1~3号機で880トンとする推計があり、東電は年内に、内部の把握が比較的進んだ2号機でロボットアームを使いデブリを試験的に回収する予定だ。

 ただ、デブリの詳しい形状や、どこまで散らばっているかなどは分かっていない。

 本格的な取り出しには専用装置の開発も必要になり、その後の処分場も未定となっている。

 デブリ取り出しは廃炉への重要な通過点だけに、国や東電は早く具体的な工程を描き、きちんと道筋を付けてもらいたい。

 東電は第1原発の放射性物質トリチウムを含む処理水について、海水で濃度を基準値未満に薄めて海洋放出する計画も示している。

 2023年春ごろの開始を目指すが、日本世論調査会が5日にまとめた全国世論調査では、賛成と答えた人が32%、反対は35%で国民の意見が割れている現状が浮き彫りになった。

 注目したいのは賛成理由だ。最多は「国際原子力機関が国際的慣行に一致すると認めている」だった。「十分な議論が行われた」を選んだ人は少ない。

 一方、反対理由では、環境汚染や健康被害を挙げた人が飛び抜けて多い。

 政府は、トリチウムは大量に摂取しなければ人体への影響は小さいと安全性を強調するものの、多くの国民に浸透しているとは言い難い。

 処理水が健康に与える影響については、国民が納得いくまできちんと周知されるべきだ。国や東電には、これまで以上に丁寧な説明が求められる。

 同じ調査では廃炉作業や復興への関心は「高いまま」が25%に対し、「低くなった」は49%と、ほぼ2倍に上った。11年経過し、福島事故への関心が薄れているのは由々しき事態だ。

 本県には東電柏崎刈羽原発が立地している。事故の風化を防ぎ、人ごととせず次代に語り継ぐ努力が欠かせない。

 昨年、柏崎刈羽原発では核物質防護設備の不備などが発覚した。原因分析や再発防止策を公表するたびに組織の「風通しの悪さ」など同じような問題点が指摘される。

 東電には本当に福島事故を招いたことへの反省があるのだろうか。安全よりコストを優先しているような空気さえ漂う。

 福島事故の「その後」にも、同じ原発立地地域として関心を持ち続けたい。