29日まである2月の暦を眺めるたび、ことしがうるう年であることを実感する。例外はあるものの、4年に一度は1年が366日となる。太陰太陽暦(旧暦)では、1年を13カ月とする「閏月」が設けられていた
▼暦と季節のずれを調整する閏月は、19年に7回程度入れると太陽暦に近付く。日本では明治の初めまで旧暦が使われていた。太陽暦を使う欧米に足並みをそろえる形で現在の暦になった
▼新しい暦が導入された背景には、明治新政府の懐事情もあった。政府は官吏の給料を月給制にしたが、ほどなく閏月がやってくる。となれば、1カ月分余計に給料を払わなければならない。当時の財政は火の車、閏月が来る前に暦の変更を急いだというわけだ
▼閏には「傍流」や「残余」といったニュアンスも含まれている。閏位といえば正統でない天子の位、閏余は余りと同じ意味を指す。三条市(旧下田村)出身の諸橋轍次が編集した大漢和辞典も「余分の月日」などと記す
▼「閏」の字は門構えの中に王がいる。一説によれば、かつての中国では閏月になると王様は正殿には入らず、門の中で仕事をしたとか。字の成り立ちはそこから来ているという
▼余分の月日であっても、有意義な時間を過ごしたい。テレワークをはじめ、門の中ならぬ家の中でできることも増えた。〈時間を空費するなかれ〉。米国の独立に力を尽くした政治家ベンジャミン・フランクリンの至言はいまを生きる私たちにも当てはまる。カレンダーを前に自戒する。