これまでと変わらない答弁に終始したのでは、説明する場を設けた意味がない。疑問に真摯(しんし)に答えようとする姿勢には見えず、政治不信をさらに深めたといえる。
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡る衆院政治倫理審査会が2日間にわたり開かれた。
岸田文雄首相と、安倍派(清和政策研究会)から事務総長などの役職を務めた西村康稔前経済産業相ら4人、二階派(志帥会)の武田良太事務総長が出席した。
開催前には、審査会の全面公開に自民が尻込みし、予定した日程がずれ込む事態に陥った。
野党が出席を求めた51人に含まれていない岸田首相が、自ら出席を求める奇策に出て、安倍派幹部の公開審査につなげた。
しかし、首相が語った内容は、政治資金収支報告書に不記載があった議員に対して党が行った聞き取り調査の域を出ていない。
聞き取り調査で「判然としない」とされ、焦点となっていた安倍派の裏金づくりの実態を問われても、首相は「十分に確認できていない。関係者の説明が続けられなければならない」とし、またも人ごとのような答弁を重ねた。
「国民の大きな疑念を招き、政治不信を引き起こした」と謝罪はしたものの、政治不信の払拭につなげるには程遠い。
2024年度予算案の23年度内成立のタイミングが迫っていたことから、膠着(こうちゃく)状態の打開に、自ら求められてもいない政倫審への出席を決めたのだとすれば、「政治とカネ」の問題に向き合う姿勢として適切ではない。
安倍派の4人は、22年に安倍晋三元首相がやめるように指示した還流が復活した過程や違法性の認識などを問われた。
復活について派閥幹部で協議したとの説明はあったが、いずれも主導を否定した。
収支報告書への不記載は、事務総長だった高木毅前国対委員長ら全員が、派閥の会計に関わっておらず「承知していない」とした。
多額の資金還流が復活した一方で、幹部の問題意識が希薄だったことが露呈したといえる。
座長を務めた塩谷立元文部科学相や事務総長だった松野博一前官房長官は、還流開始時期が二十数年前だった可能性に触れた。
「歴代派閥会長と事務局長の間の慣行」との発言もあった。それならば派閥会長を務めた森喜朗元首相への聞き取りが欠かせない。
3500万円を超える収支報告書不記載があった二階派の二階俊博元幹事長や、2700万円超が不記載だった安倍派の萩生田光一前政調会長は政倫審に出席しなかった。収支報告書や使途に不明な点が多く、説明を求めたい。
今回の審議ではまだ詰め切れない問題が残るが、自民の自浄能力に期待はできない。さらなる政倫審や証人喚問が避けられない。
