新潟の浜辺から見る夕焼けは自慢の一つだ。太平洋側の人はどんなに首を長くしても、水平線にジワッと音を立てて沈むような夕日はめったに拝めない

▼パレスチナ自治区ガザは地中海に面する。大きなオレンジに似た、かの地の夕日も息をのむ美しさだ。昨年10月以来、イスラエルによる集中爆撃が続く。わずか150日ほどで犠牲者は3万人を超えた。子どもを含め1日当たり約200人の命が奪われている

▼自治区は新潟市の半分ほどの土地に、本県民全員を押し込んだような人口密集地。本格的な攻撃が始まる前の現地を取材したドキュメンタリー「ガザ 素顔の日常」が新潟市の映画館シネ・ウインドで15日まで上映されている

▼漁師やタクシー運転手ら普段着姿の住民は生き生きしている。だが、当時も街頭の笑い声が突然の空襲にかき消されることがあった。「海はこんなに広いのに、私たちは閉ざされている」。留学を夢見る女子学生は地中海を前につぶやいた

▼3万人といえばウクライナ軍の犠牲者も、この数を超えたと同国大統領が先月明かした。実際にはその倍以上と見る向きもある。ロシア軍も多数の死者が出た。侵攻から2年。戦地は雪解けの春を迎える。土が乾けば、地上戦はさらに激化する懸念がある

▼日本は今月、国連安全保障理事会で議長国を務める。中東と東欧の停戦交渉は行き詰まっている。東西冷戦時代から「雪解け」は、緊張緩和や和平の代名詞のはずだ。議長国のかじ取りに世界が注目している。

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