今となっては信じがたい話だが、デビュー当初は全然売れなかった。死去が伝えられた漫画家の鳥山明さんである。後に「Dr.スランプ」や「ドラゴンボール」が国民的なヒットとなったことは、誰もが知っている

▼デビューから間もなく、少年漫画雑誌の新人賞の選考対象になった。しかし、読者からの人気は圧倒的な最下位に沈んだ。そこから編集者と試行錯誤を重ねた。アイデアを何度も練り直し、ようやく形になったのが「Dr.スランプ」だった

▼原案では発明家のおじさんを主人公にした。しかし、編集者から待ったがかかった。作品に登場するロボット少女が、何ともいえずかわいらしかったからだ。この子を主人公に据えたらどうかと言われた

▼少年漫画で女の子を主人公にするのは…と、首を縦に振ろうとしなかった。最後には賭けをすることになった。女の子が主人公の短編を描き、アンケート結果が良かったらロボット少女を主人公にする-

▼小千谷市出身で当時の担当編集者だった鳥嶋和彦さんが以前、本紙の取材に明かした逸話である。その後は多くの人がご存じの通り。ロボット少女「アラレちゃん」は漫画史に残る人気キャラクターになった

▼突然の訃報にがくぜんとする。伸びやかな線、角張ったところがないキャラクター造形…。戦闘シーンでさえも、どこかあか抜けた空気が漂った。あまり湿っぽい別れは似合わないかもしれない。涙とともに、アラレちゃんのせりふであえて明るく見送ろうか。「バイちゃ!」

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