小学生の息子に「友だちの親と連絡先を交換してほしい」と頼まれた。同じ習い事をしている子で、近々やめるかもしれないという。別々の学校に通っており、共に携帯電話は持っていない

▼親同士がつながることで連絡を取り合いたいようだった。離ればなれになる友人と連絡先を交換する-。数十年前、中学生の頃に流行した「サイン帳」を思い出した

▼著名人に書いてもらうようなサインではなく、住所や電話番号といった連絡先に加え、生年月日や好きな食べ物、趣味などの自己紹介やメッセージを記してもらう。専用用紙がファイルにとじられていて、卒業式前に校内で飛び交っていた

▼当時は友人との連絡はもっぱら家の固定電話。進学後は連絡を取る機会が一気に減った。サイン帳は連絡先を把握するためのツールというより、ふとした時に見慣れた筆跡を見返して、つながっていることを確認するための安心材料にしていたような気がする

▼現代はスマートフォンがある。交流サイト(SNS)を活用すれば、離れている友だちが今日何を食べ何をしたのか、そんなことも簡単に分かる。いい時代だね。息子にこう言うと「それでもさ、会えなくなったら寂しいよ」。もっともだ

▼年を重ねた今言えるのは、気の置けない友人とは長年離れていても、会えば一瞬で距離が元通りになるということだ。春の足音が聞こえる。節目を迎える人たちが、かけがえのない人間関係を築けますように。これまでの結びつきも大切にしつつ。

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