東日本大震災から、きょうで13年。毎年今頃になると、この歌詞が頭に浮かぶ。〈早春の午後 押し寄せる高波に砕けた未来〉。浜田省吾さんの「アジアの風 青空 祈り part-2 青空」の一節だ

▼浜田さんは社会問題も歌にしてきた。原発や原爆を取り上げた曲もいくつかある。広島県出身で、父親が被爆者であることも関係しているかもしれない。大震災では津波で多くの死傷者が出た。東京電力福島第1原発で重大事故が発生し、被ばくを避けるため多くの人が故郷を追われた

▼昨年、第1原発を取材したことを思い出す。敷地の周辺地域は人の気配がなく、時が止まったかのようだった。衣料品店には商品が残され、事業所のテーブルには缶コーヒーが置かれたままになっていた。復興が進む地域がある一方、手つかずの場所も目にした

▼私たちは自然が引き起こす災害に打ちのめされ、原発事故の恐ろしさも思い知ったはずだった。前述の曲で、浜田さんは叫ぶように歌っている。〈充分過ぎるくらい学んだ…違うか?〉

▼だが、国は原発を積極的に活用する方針に転換した。そんな中、能登半島地震が起きた。道路の崩落で避難が難しくなるなど、原発事故に対する不安が改めて鮮明になった。先日の県内市町村長の会合では、地震や大雪と事故が重なる複合災害時の避難について懸念する声が相次いだ。能登で浮かび上がった課題に真摯(しんし)に向き合う必要がある

▼浜田さんの歌声が切ない。まだまだ学ばねばならないのか。

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