国産の経口薬が承認されれば、海外の製薬企業頼みとなっている現状の打開につながることが期待できる。
安全性を十分に確認し、早期の実用化と安定供給に向けた努力を重ねてほしい。
塩野義製薬は、開発を進めていた新型コロナウイルスの飲むタイプの治療薬に関して、厚生労働省に承認申請を行った。
軽症者向け飲み薬で国内の製薬企業が開発したものとしては初めてだ。重症化リスクの有無を問わず投与できるなど、使用法の制限が少ないのが特徴だ。
国はできるだけ早く承認審査をする考えを示している。
塩野義の薬はウイルスの増殖を抑える働きがある抗ウイルス薬と呼ばれるタイプだ。5年かかるとされる飲み薬の化合物の創出に約9カ月でこぎつけた。
実用化の具体的な時期は国の判断次第としながら、3月末までに100万人分程度の提供が可能だとする。
新型ウイルスの飲み薬では、米メルクの「モルヌピラビル」やファイザーの「パキロビッド」が既に特例承認されているが、投与できるのは重症化リスクのある人に限定されている。
しかも流通量が限られており、国が買い上げた上で必要最小限の量を全国に配布している。そのため医療機関や薬局が多くの在庫を持つことは難しく、世界の需要に影響を受ける恐れがつきまとう。
国産の飲み薬が開発されれば、過度な輸入依存に陥らなくて済み、これまでより供給が安定するはずだ。
他にもメリットとして、医療従事者の負担軽減がある。
現在、軽症者向けには抗体医薬「ソトロビマブ」などがあるが、点滴で投薬する必要があり、時間と手間がかかる。
飲み薬なら点滴薬のように医療機関で投与する必要はなく、医師らの負担を少しでも減らすことができる。
ただ、ファイザーが国際的に実施した臨床試験(治験)には2200人余りが参加したが、塩野義が分析に使ったデータは400人分だ。
服用した人のウイルス量の減少などは確認したとするが、入院リスクをどれだけ減らせるのかは分かっていない。
薬の承認は通常、3段階ある治験を終えてから申請する。しかし、塩野義は2段階目の治験結果を取りまとめ、迅速な審査が可能な「条件付き早期承認制度」の適用を希望した。
希少疾病など治療法が乏しい病気の医薬品が対象で、流通開始後にも有効性、安全性を調べることを条件に限られたデータで審査、承認が可能とする。
スピード重視の申請と言えるが、審査が拙速なものとならないようにしてもらいたい。
まん延防止等重点措置を巡っては東京、大阪、愛知など18都道府県について適用が続いており、感染者の大幅な減少は見られない。
国産の飲み薬が早期に実用化され、国民の安心の切り札になることを願いたい。
