詳細な事故原因を明らかにしないままで、飛行再開を決定するのは拙速過ぎる。安全を求める住民の思いを踏みにじるものだ。

 防衛省は、米軍がオスプレイの飛行停止措置を解除したと発表した。オスプレイは、昨年11月に鹿児島県・屋久島沖で8人が死亡する墜落事故を起こし、米軍が全世界での飛行を停止していた。

 防衛省は「原因が特定され、安全に再開できることが確認できた」としている。陸上自衛隊のオスプレイも再開する方針だ。

 問題なのは、米軍が原因となった部品の不具合を特定したが、防衛省が具体的な部位や内容は明らかにできないとしたことだ。

 米軍の事故調査が継続し、訴訟などへの対応も含まれるなど米国内法上の制限があるためとの説明を受けたとしている。

 政府は米側の報告を聞くだけでなく、国民の安全を守るために毅然とした対応が求められる。

 再開の具体的な時期は、今後日米間で引き続き調整するという。防衛省は再開へ向けた関係自治体への説明を本格化させる。

 木原稔防衛相は「これまでにないレベルで詳細に報告を受けた」とするものの、つまびらかにできない部分があり、ぎりぎりの内容で説明するという。

 住民が納得できる丁寧な説明が欠かせないが、「手持ちの情報が少ない状態で、住民に理解をしてもらうことなんてできるのか」と漏らす自衛隊幹部もいる。

 住民の不安が解消できるとは、思えない。

 墜落を目撃した屋久島の住民は「具体的な原因は私たちに分からず、腹立たしい」と話す。政府は重く受け止めるべきだ。

 日米間で技術情報をやりとりした結果、事故機固有の不具合ではなく、陸自機などでも発生する恐れがあると分かったことも気になる。陸自は14機を配備済みだ。

 安全対策として、異常探知システムによる点検と整備の頻度を上げることなどを決めたというが、それで十分なのか。

 オスプレイは事故が頻発し、安全性への疑念は高まるばかりだ。徹底的な原因究明と再発防止策を示さねばならない。

 米軍が再開を急ぐ背景には、飛行停止が約3カ月に及び、操縦士の練度や機体の整備が課題となっていることがあるとみられる。

 台湾有事を念頭に、部隊を島しょ部に分散展開させる作戦に、オスプレイは欠かせない。飛行停止により、九州・沖縄で実施中の海兵隊と陸自による訓練に参加できなかった焦りもあるだろう。

 政府は「南西シフト」を拡大して鹿児島県や沖縄県の南西諸島を中心に防衛力を強化しており、現地では不安が強まっている。

 対米追随で国民への十分な情報提供がなされないようでは、住民の信頼は得られない。