投票箱を持った選管係員が兵士と住宅を一軒一軒回っていた。ロシアが一方的に併合を宣言し、大統領選を強行したウクライナ南部の男性は取材に、こう証言した。「うその選挙に意味はない」。怒りをあらわにする住民もいた
▼ロシア大統領選は、プーチン氏が圧倒的な得票で通算5選を決めたという。ほかに3人の候補者がいたが、ウクライナ侵攻反対を訴える元下院議員らは中央選管に候補者登録を拒否された。選挙戦で侵攻を批判する候補はいなかった
▼国の命運を左右する課題が選挙で議論されない。そんな選挙に何の意味があるのかと首をかしげるが、ロシアの政権にとってはプーチン氏の統治が圧倒的な信任を得たと演出することが目的だったようだ。当局を挙げて圧勝キャンペーンを展開した感がある
▼選挙は民主主義の根幹をなす。ただ強権政治の下では、選挙の結果も為政者側の思うままになりがちだ。民主主義のもろさが見て取れる。一方で、こうも言えないか。曲がりなりにも選挙を経て為政者が選ばれるという形が取られるのは、権力側も民主主義を無視はできない証しである
▼民主主義は正しく使われれば統治者の暴走を防ぐ手だてになる半面、使われ方によっては統治者の正統性のアピールに利用される恐れがある。私たちは、絶えず民主主義を磨いていかねばならないのだろう
▼例えば、不透明な資金を使って政治をゆがめるような事態を見過ごしてはなるまい。ロシアの現状に、そんな思いを一層強くする。