「万が一の時に受ける人口集団の(被ばく)線量をできるだけ低くすることが重要」「そのために(原発建設地は)人口密集地を避けている」。1996年、国の原子力委員会が開いた原子力政策円卓会議で、伊原義徳委員長代理が発した言葉が波紋を広げた

▼原発建設の適地選定について定めた指針に沿った発言ではあったが、立地地域からは「過疎地は都会の犠牲になれということか」と反発する声が上がった。立地地域ばかりが重い負担を強いられるという構図は現在も変わっていない

▼その後も福島第1原発事故や大雪による大渋滞、能登半島地震などを経験し、重大事故が起きた際の避難が難しいという課題も浮き彫りになった。柏崎刈羽原発ではテロ対策などを巡る不祥事が繰り返され、原発を取り巻く課題はより広範に、かつ複雑になっている

▼そんな中で国は柏崎刈羽の再稼働について地元同意を求めてきた。地元の事情を顧みず、冷徹に手続きを進めようとする姿勢が見て取れる。原発の積極活用にかじを切った国策をひたすら推進しようということか

▼国策という言葉には、どこか冷たい響きがある。地方の人間にとってはなおさらだ。振り返れば、国の大方針であるという「錦の御旗」の下に、疑問の声は封じられがちだった

▼地方と国のすれ違いを、これ以上繰り返してはなるまい。地方ばかりが我慢を強いられる状況も、ごめん被りたい。中央の論理を押し通そうとするだけなら、地方の反発は強まるばかりである。

朗読日報抄とは?