路線バス事業の行方がかすんでいる。運転手の労働時間の規制強化が2024年4月に迫る中、慢性的な運転手不足に拍車がかかり、新潟県など全国で路線バスの減便や廃止が相次いでいる。いわゆる「2024年問題働き方改革関連法に基づき、4月1日からバス運転手の時間外労働の上限を年間960時間に制限する。1日の拘束時間の上限はこれまでの16時間から15時間に減る。勤務間の休息(インターバル)は継続11時間を基本に、最低は9時間となる。」だ。地域を支える交通手段をいかに維持していくのか。対策を急ぐ県内事業者を紹介する。(この連載は報道部・渡辺一弘、笠原萌志=きざし=が担当します)=3回続きの1=
- <中>他産業より低い賃金、待遇改善の道は
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- 新潟交通の路線バス 100~130便減便
「できれば減便はしたくないが、このままではダイヤを維持できない」。新潟市で路線バスを運行する新潟交通(新潟市中央区)の渡辺健(たけし)乗合バス部長は、もどかしい思いを口にする。
新潟交通は3月31日から、運行本数を平日に5%の134便、土日祝日に97便それぞれ減らす。減便は新型コロナウイルス禍で大幅に減らした2020年11月以降6回目だ。だが渡辺部長は「今回は2024年問題への対応が主な目的だ」と強調する。運転手のやりくりはもう限界という。
新潟交通では現在のダイヤでも15人ほど運転手が足りていない。不足分は時間外労働や感染禍で減便した高速バス運転手を充当するなどして何とかしのいできた。しかし4月から規制強化で働ける時間が減る。「黒字路線も減らした。法令を守って運行するには運行規模を小さくするしかない」
JR新潟駅前のバスターミナルで乗車待ちをしていた新潟市西区の高校3年の生徒(18)は「減便は不便だし、便数は増えた方がいいと思う。でも運転手が足りないと聞くと何とも言えない」と利用客ももどかしさを抱える。
▽感染禍が追い打ちに
新潟市の資料によると、新潟交通の運転手数は2017年度の518人に対し、21年度は418人。わずか4年で2割近く減った。全国的にもバスの運転手不足は深刻だ。日本バス協会(東京)によると、17年は13万3千人だったが、21年は11万6千人となった。運行ダイヤを維持できなくなり、各地で減便が相次いでいる。
運転手不足の背景には、長い拘束時間と他産業に比べて低い賃金という事情がある。加えて、新型コロナウイルス禍による利用者減が追い打ちをかけた。
「感染禍で乗客の“蒸発”を目の当たりにしたことで、業界の未来に不安を抱えて辞めた運転手もいた」(下越地方のバス会社)。乗客減少に伴う経営悪化で採用を一時ストップした事業者もある。

運転手不足が懸念される路線バス=3月24日、新潟市中央区 東大通り
新潟交通は2023年度、再雇用終了を含めて20人が辞め、採用は11人にとどまった。運転手不足は20年以上前から言われてきた。だが人事担当者は「感染禍前は募集数に対して2倍とまではいかないが、一定の応募はあった。感染禍後に厳しくなった」と苦境を訴える。
▽休息と拘束時間
これまでは「残業頼み」でダイヤを維持してきたが、24年4月以降は難しくなる。
越後交通(長岡市)の中山謙一取締役運輸営業部長は「勤務間の休息(インターバル)が1時間長くなり、拘束時間が1時間減る影響が大きい」と話す。4月1日から一部路線を減便・廃止するほか、最終バスを1時間以上繰り上げる路線もある。
路線バスは通勤通学を担うため、朝と夕に運転手が最も多く必要となる。これまでは朝便を担当し、数時間の休憩を挟み、夕方の乗務も多かった。だが休憩を含む拘束時間の上限が1日16時間から15時間となるため、残業で「もう1本運転」は難しくなる。勤務間の休息は最低9時間となり、夜遅くまで運転すると翌朝ピーク時の便に間に合わない。
改正前のダイヤで約300人のドライバーが必要だったが、既に15人程度不足していた。「運転手の数がいれば、『2024年問題』があっても、減便などをせずに対応ができたのだが…」と中山部長。公共交通の一翼を担う路線バスが瀬戸際に立たされている。
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