ラーメンを食べ、会計でスマホを取り出す。カメラで読み取るのは、碁盤の目をごちゃ混ぜにしたような白黒の四角形。値段を入力すれば「毎度あり!」。店員さんの声が返ってくる
▼現金いらずのデジタル社会が進む。食堂もコンビニも、クレジットカードとともに、あの四角の「QRコード」にお世話になる機会が増えた。商品説明や新聞紙面でもおなじみだ
▼詳しい情報が得られ、インターネット経由で動画まで見られる。教育現場にも急速に広がる。来年度から中学校で使う10教科100点のうち97点、ほぼ全ての教科書に記載されるという
▼あの不思議なマークは1994年、日本で生まれた。発明した原昌宏さんは当時30代で、自動車部品大手デンソーの応用機器技術部門(現デンソーウェーブ)の技術者。趣味だった囲碁の碁盤模様をヒントに、バーコードの200倍の情報を取り込めるQRコードができた
▼昨年の世界デジタル競争力ランキングで日本は32位と年々順位が落ちている。国内総生産もドイツに抜かれた。バブル崩壊以降の経済低迷は「失われた30年」と呼ばれる。一方でQRコードの発明は30年前だ。先端技術の規格争いで日本が苦しむ中、デンソーは特許を無償で開放し、目先の利益より、まず世界で使ってもらうことを優先した
▼急がば回れの精神が今の国際標準につながった。「世の中にないものを作る楽しさ、喜びを知ってほしい」と原さんは言った。新年度、新入社員や新入生にぴったりの励ましだ。