あいにく開花にはまだ早かったけれど、新発田市で行われた加治川桜堤ウオークは、ぽかぽかの陽気に恵まれた。100人余りが川沿いを歩き、残雪の二王子岳を遠くに見ながら春の訪れを五感で味わった
▼花見の名所は数あるが、加治川の両岸延長14・5キロをつなぐ約2100本の桜は壮観だ。今の姿に至るまでのストーリーも興味深い
▼かつて6千本にも及ぶ桜が連なった加治川は「長堤十里世界一」と言われた。だが、1967年の羽越水害などで堤防の桜の木が破堤を誘引したとする「桜犯人説」が流布し、すべて伐採される憂き目を見る。現在の桜堤は「古里の誇りを取り戻す」という市民の熱意を受け復元の途上にある
▼その一翼を担っているのが、地元出身の作詞家たかたかしさんが98年に発起した「加治川を愛する会」だ。たかさんは会報第1号で「自分の住む町・村を愛する心を子どもたちに伝えていこう」と無償の汗を呼びかけた
▼会は地道に植樹をし、毎春の桜堤ウオークを主催する。市内の小学校で堤の歴史を語って聞かせ、巣立つ中学生に桜堤の絵はがきセットを贈り続ける。「子どもたちの心にも桜を植える」活動なのだという
▼植樹は息の長い取り組みだ。直接の利益を生むわけでもない。目先の損得にとらわれる「今だけ金だけ自分だけ」の風潮とは対極にある。人口減少が進む地域の課題は郷土愛だけで克服できるものでもないが、必要とされる知恵や力は古里への愛着や誇りを土壌に芽生えるものだろう。