市民感覚からすれば起訴するのは当然だ。一方で検察がなぜ判断を一転させたのか、納得できる説明はない。これまでの捜査手法が妥当だったのか問う声もある。
検察は今後の裁判で丁寧に説明し、国民の疑問に応えなくてはならない。
2019年の参院選広島選挙区を巡る買収事件で、河井克行元法相から現金を受領し、検察審査会が「起訴相当」と議決した広島県議ら35人について、検察は再捜査で当初の不起訴処分を一転させた。
公選法違反(被買収)の罪で県議ら9人を在宅起訴、25人を略式起訴とした。
買収事件を巡っては、検察は昨年7月、河井元法相の妻案里氏を当選させるため夫妻側から現金を受け取ったとする県議ら100人全員を不起訴とした。「受動的な立場だった」ことが理由だ。
しかし検審は今年1月、受領額や議員辞職の有無などを基準に100人のうち35人を「起訴相当」とし、46人を「不起訴不当」とした。これを受けて検察は再捜査を進めていた。
当初不起訴とされた中には多額のカネを受け取った議員もいた。検察が一律不起訴とした判断は、数千円単位の受領でも罪に問われていた過去の買収事件と比べ公平性に欠けていた。
検察は起訴とした今回の結論について「国民から選ばれた検審の議決を踏まえて最終的な判断に至った」と説明した。
検審の議決を重く受け止めた判断は妥当といえる。ただ、そこに至った経緯についての説明は十分とはいえない。
当初不起訴にしたことについては、裁判で河井夫妻を有罪とするために、受領側から有利な証言を得ようと事実上の司法取引を行ったからではないかとの疑いが指摘されている。
現金を受け取ったことを認めた議員の中には、「検察側からあなたたちではなく、河井さんの問題だからと言われ、協力した」と証言する人もいる。
検察側は司法取引の存在を否定しているが、疑念は払拭(ふっしょく)されないままだ。
今回在宅起訴された9人は違法性を否認したとみられる。捜査の在り方が適切だったのかについては今後の裁判で争われる可能性がある。供述調書の信頼性についても問われよう。
検察は公判で捜査の全容を明らかにし、説明を尽くす責任がある。疑念が残ったままでは、検察への信頼も揺らごう。
検審の議決以後、関係する議員の辞職が相次いだ。民主主義の根幹である選挙をゆがめた罪は重い。責任を取るのは政治家として当然だ。
見過ごせないのは、自民党本部から案里氏陣営に提供された1億5千万円の問題が未解明なことだ。このカネが買収の原資になったのではないかとの見方はいまなお根強い。
自民党は否定しているが、これまでの説明では不十分だ。国民が抱く不信を解消するためにもきちんと再調査すべきだ。
