「壁」という言葉には障害や妨げといった意味もある。それ以上進むことが難しい状況を「壁に突き当たる」、厳しい局面を突破することは「壁を乗り越える」という
▼異なる言葉を話す人同士の意思疎通の難しさを表す比喩に「言葉の壁」がある。相手が使う言語が分からなければ、その壁は高く険しい。外国人と話すたびに壁の存在を再認識させられる
▼耳が不自由な人にも言葉の壁があることを、日本国際手話通訳・ガイド協会の資料で知った。話し言葉と同じように手話も国や地域によって動作が違う。国際手話は「手の言葉の壁」を取り払い「共通語」としての役割を持つ
▼例えば「ありがとう」という言葉を伝える場合、日本では大相撲の力士が手刀を切るような動きをする。それが国際手話になると投げキスに近いしぐさになる。お国柄や地域性が反映されているようで興味深い
▼県内で国際手話をマスターしている人は少ないという。実際に使う機会がさほどなく、通訳をする人の育成も全国的な課題になっている。日本の手話の習熟者を認定する手話通訳士の資格を持つ人ですら全国で約4200人、県内は38人にとどまっている
▼来年秋に日本で初めて東京で開かれる聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」でも国際手話が使われる。各国の選手が集う晴れ舞台は、その存在を知ってもらうチャンスにもなる。大会では、聴覚とコミュニケーションの壁をクリアしてほしい。国際手話は動画で学ぶこともできる。