黄金週間はお日さまが上機嫌なようだ。越後平野はわずか数日で、乾田が鏡のような水面に変わった。田んぼに水を入れ代かきをして、田植えは進む。きのうは立夏だった。夏の季語「薫風」が、早苗をなでて揺らす

▼この時季は風薫る水田を見渡す時、新潟で暮らす幸運を感じる。家族総出で稲を植える。作業の合間におにぎりを頰張る。そんな小休憩「こびり」の伝統も残っているだろうか

▼「車があるから昼は家に帰るさ。小腹がすけばコンビニに直行だ」。新潟市郊外で田植えの準備をしていたお年寄りは様変わりの農作業を話し、昔を懐かしむ。「去年は稲も熱中症みたいにやられた。今年は1等米を育てんと」と笑顔を見せた

▼田んぼでは、おにぎりの出番は減ったかもしれない。でも街中では専門店がブームという。県内でもおしゃれな店が増えた。東京では、本県産コシヒカリを出す専門店に行列ができているともいう

▼わが国の食料自給率は4割に満たない。でもコメは、ほぼ全てが自給だ。パンやパスタの原料である小麦は8割以上が輸入で、長引く円安も重なり、高コストが続く。ウイルス禍で巣ごもりが増えた頃あたりから、価格競争力があり、具材も多彩なおにぎりの魅力が再評価されているようだ

▼本県の水稲収穫量は長年全国トップ。コメ粉麺やコメのヨーグルトも注目されている。量でも味覚でも、食の安全保障を支える力が郷土にある。初夏の陽光きらめく田んぼを眺め、おにぎりをガブリとやるのもいい。

朗読日報抄とは?