本県をはじめ原発が立地する地域にとって、決して見過ごしにできない。政府や関係機関はリスクに目を凝らし、対応策を議論する必要がある。

 ロシアによるウクライナ侵攻で原発が攻撃され、国会で日本国内の原発が武力攻撃を受けた場合の対応が議論になった。

 ロシア軍はウクライナ南部にある欧州最大級のザポロジエ原発を制圧したが、その際、原発への砲撃を行った。史上初の稼働原発への軍事攻撃だ。

 さらにウクライナ東部ハリコフで核物質を扱う原子力研究所がロシア軍の砲撃を受け、施設が損壊するなどした。

 原発や核関連施設に対する攻撃は放射性物質の拡散につながる危険性がある。これらの攻撃は、戦時下では原発や核施設が深刻な安全保障上のリスクとなる現実をあらわにした。

 柏崎刈羽など全国の原発立地地域の住民から不安の声が上がったのは当然だ。

 参院予算委員会で岸田文雄首相は、いざという時は日本のミサイル防衛(MD)網を中心に臨む考えを示し、イージス艦や地上で運用する地対空誘導弾で対処するとした。

 原発の運転停止や住民避難に取り組むとも答弁。「原子炉等規制法を含む国内法の整備と安全保障対応によって原発の安全を確保する」と述べた。

 しかし現状のMDは確実にミサイル攻撃を防御できるレベルではないとの見方が支配的だ。住民避難も被害が発生する前に完了できる保証はない。

 首相は原発警備に関し、福井県警が全国で唯一設置している専門部隊を参考に、各地への展開を検討するとした。だが、その福井県からも現状の対策に不安の声が上がる。

 原子力規制委員会の更田豊志委員長は記者会見で、原発へのミサイル攻撃について「守りようがない」との認識を示した。

 今回の事態は、原発への攻撃に万全の対策を持たない実情を浮き彫りにしたといえる。

 不安に応えるため「守り」の強化を巡る議論が必要なのは確かだろうが、原発が武力攻撃にさらされるような事態を招かないこと、そのための外交努力が重要だということを肝に銘じなければならない。

 原発防衛の名の下に、軍備拡張に前のめりなムードが生まれないか。そんな心配もある。

 首相は敵基地攻撃能力の保有について排除せず検討する意向を繰り返し表明してきた。だが保有は、日本の専守防衛の原則を揺るがしかねない。冷静な議論が求められる。

 今回の事態を受け、野党は原発政策の見直しを迫る構えを見せ、再稼働反対や廃炉の訴えも出ている。

 一方、自民党内からはウクライナ侵攻に伴う資源価格の急騰を受け、原発の活用を求める意見がある。

 原発立地県に暮らす私たち新潟県民は改めて原発がもたらすメリット、デメリットをきちんと見極め、再稼働問題などを判断する際のヒントとしたい。