生まれてくる赤ちゃんの状態を心配する妊婦に、情報を丁寧に伝え、しっかり支援できるのか。障害への差別助長につながる恐れもある見直しだけに、慎重に対応すべきだ。
妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる新出生前診断について、日本医学会の運営委員会が、これまで35歳以上に限ってきた検査を35歳未満にも認める新たな指針を公表した。
従来の認定施設の下に連携施設を設けるなどして検査を受けられる病院の数も拡大する。今春にも運用が始まる見込みだ。
認定施設は現在、全国に100余りあるが、連携施設が増えることで、近くに認定施設がなくても検査へアクセスしやすくなるとみられる。
指針の見直しの背景には、情報提供など体制の整っていない無認定の民間クリニックが急増している状況がある。
これまで学会は、胎児のダウン症などのリスクが上がる高齢の妊婦を対象に、遺伝カウンセリングなどの体制が整った認定施設でのみ検査を認めていた。
しかし、年齢などの条件を満たさない妊婦が無認定施設で検査を受け、結果について十分な説明も受けずに混乱したり中絶を決めたりした例も出ている。
今回の見直しは、こうした現状を見据えてのことなのだろうが、課題や懸念も残る。
その一つは、妊婦への情報提供の在り方だ。
これまで国は、妊婦に検査の情報を積極的に知らせる必要はないとしてきた。これを改め、市町村で保健師などがチラシを用いて対面で情報提供する仕組みを盛り込んだ。
妊婦が安易に無認定施設に行かないようにするのが狙いだが、行政や医療機関は検査を受けない選択肢も提示するなど丁寧な説明が求められる。
国の調査では、認定施設でもカウンセリングに時間のばらつきがあり、対応に差が生じていることが分かっている。
不十分な理解のままでは、妊婦や家族に不安を与える恐れもある。研修などを通し、連携施設も含めた質の向上が急務だ。
注意したいのは、出生前診断は障害のある人を排除し、命の選別につながる恐れをはらんでいるということだ。
検査に関する情報だけでなく、障害のある子どもの子育てや暮らしぶりを正しく伝えていくことも忘れてはならない。それには福祉団体などとしっかり連携していくことが不可欠だ。
新指針が導入されても、手軽さと安価さが売りの無認定クリニックによる検査が減るのは困難との見方は強い。今回、規制強化に踏み込まなかったのは不十分ではなかったか。
新指針は、厚生労働省も参加してまとめられた。しかし議論はすべて非公開で、簡単な議事要旨が公表されているだけだ。
専門家からは議論の経過が分からないと後から検証できないとの批判が出ている。
新出生前診断にどう向き合っていくか、社会全体で考えるためにも原則公開すべきだ。
