ほかの月ではしっくりこない。風薫る、とくれば5月である。「薫る」を国語辞典で引くと、良い匂いが辺り一面にすることとあった。散歩に出かけた公園で、花々と新緑の匂いが鼻腔(びこう)をくすぐった

▼においには「臭」の字を当てることもある。本紙の表記の決まりでは、いい香りは「匂」、不快なものは「臭」と使い分ける。判別が難しい場合や、ほのめかす意味の際は平仮名にする

▼そのにおいは、どちらの字が当てはまるのか迷うことがある。香水が苦手な人がいる。知人の一人は古本のにおいが好きだと言ってはばからない。においで周囲に不快感を与える、スメルハラスメントなる言葉も市民権を得つつある

▼今どきの若者はあまり鼻が利かない。医療ジャーナリストの林義人さんが紙面で指摘していた。嗅覚は子どものころからの体験や学習でも培われるが、インスタントや電子レンジでチンの食事ばかりの食卓では嗅ぎ分けをする機会が少ないという

▼本紙のルールにのっとれば、裏金で揺れる自民党から漂ってくるのは間違いなく「臭」である。事件の全容解明はすっかり棚上げされ、まさしく「くさいものにふた」状態だ

▼その昔「くさい臭いは元から絶たなきゃ駄目」というCMがあった。くさい臭いを絶とうにも、発生源が分からなければ手の施しようがない。「鼻が利く」という慣用句は敏感に何かを見つけたり、察知したりする様子を指す時にも使われる。私たち一人一人がうさんくささに鼻を利かせるほかはない。

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