無罪を訴え続けた審理が半世紀以上も続く、異常な事態を改めねばならない。裁判をやり直す再審制度の不備を見直し、審理の迅速化を図ることが急務だ。

 1966年に静岡県の一家4人が殺害された事件で、強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さんの再審公判が22日、静岡地裁で結審した。検察側は確定審と同様に死刑を求刑し、弁護側は改めて無罪を主張した。

 刑事訴訟法は、再審開始を「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」があったときと定めており、9月26日の判決で、袴田さんが無罪となる公算が大きい。

 再審開始を決定した2023年3月の東京高裁は、確定判決で犯行着衣とされた「5点の衣類」について、捜査機関による証拠捏造(ねつぞう)の疑いを強く指摘した。

 にもかかわらず、再審公判でもかたくなに有罪を立証しようとする検察の姿勢は、疑問だ。

 弁護側は「冤罪(えんざい)を作ろうとする極悪非道の論告」と検察を強く非難し、専門家は「無理筋な主張を繰り返している」と批判した。

 問題なのは、事件から60年近くたっても、いまだに決着していないことだ。

 袴田さんは初公判以来、一貫して無罪を主張し、88歳になった。拘置所に47年間収容されたため、拘禁症状が残っているという。

 共に闘っている91歳の姉ひで子さんは、最終意見陳述で「巌を人間らしく過ごさせて」と訴えた。司法関係者は、重く受け止めてもらいたい。

 袴田さんの公判などをきっかけに、日本の再審制度の問題点が明らかになった。

 刑事訴訟法のうち再審に関する規定である再審法は、戦前の旧刑訴法をほぼ踏襲しており、現在まで改正されていない。

 再審請求を受けた裁判所がどういう手続きで審理を進めるのか明文規定がない。裁判所が再審を決定しても、検察官の不服申し立てで審理が長期化するのが現状だ。

 袴田さんの場合は、14年に静岡地裁が再審開始を決定したが、検察官側が抗告し、再審開始が確定するまで9年かかった。

 袴田さんを巡っては、かねて冤罪の可能性が指摘されている。検察側の申し立てで結論が先延ばしになっている事実は重い。

 証拠開示にも問題がある。検察側は有罪を立証するための証拠だけを提示し、再審請求段階になっても無罪につながる証拠をなかなか出そうとしない。

 冤罪をなくすために、全ての証拠を開示させる制度が不可欠だ。

 日弁連は再審法改正を求めている。3月には、見直しを目指す超党派の国会議員連盟も発足した。

 再審の手続きに長い時間を要するのは冤罪救済の観点からも問題が大きい。早急に改正を実現してもらいたい。